混沌私見雑記

音楽やら小説やらアニメやら漫画やらゲームやらロードバイクやら

村上春樹のこと、誤解してない?

作曲家にしろ小説家にしろ漫画家にしろ脚本家にしろ、ヒット作・有名作が「その作家の普段の作風から考えると異質な作品」という作家は数多くいます。

本来の(あるいは得意の)作風が、必ずしも「大衆に売れるもの」とは限らないわけですから。それにしたって「超有名作家」ですら世間では間違えて認識されていたりして、せつないな。

 

イニシエーション・ラブ』でヒットした乾くるみのデビュー作が「超エログロサイコSFサスペンスホラーミステリー」だったりするのは、知られていないんじゃないですかね。『Jの神話』ももっと評価されていいのではないかと思うのですが

 

んなわけで、シリーズ連載として「バチバチの有名作家だけど、世間の印象と作風が合致していない人」をつらつら書いていこうと思います。

今日は村上春樹の回です。

 

村上春樹の代表作はなにかと聞かれて、みなさんが挙げるのは『ノルウェイの森』じゃないですか? 

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

 

 

 『ノルウェイの森』は国内の発行部数だけで1000万部を超えている超ベストセラー作品。古本や図書館や貸し借りで読んだ人を考えると発行部数の2.5倍くらいは読者がいそう。えげつねえ数字だ。

村上春樹は熱狂的なファン(いわゆるハルキスト)を擁する一方で、アンチの勢いもえげつない作家です。ラーメン屋でたとえると一蘭くらい分かれます。ちなみにぼくは一蘭につきましては(割愛)

 

村上春樹が苦手な人の意見として

「すべてがオシャレ(笑)」
「台詞がキモい」
「比喩がキモい」
「文章がキモい」
「文章がくどい」
「文章がしつこい」
「主人公が気障っぽい」
「スパゲッティばかり茹でるな」
「セックスをするな」
「セックスやめろ」
「作者のスノッブさが透けて見える」
「女性蔑視が根底にある描写だ」
「いつも誰かが失踪している」
「いつも穴の中に潜っている」

などがあると思います。最後の失踪と穴について言及している奴はけっこう読んでるな。

 

村上春樹ってめっちゃ人気あるよな。どれ、ひとつ読んでみるか」と思って読んだときに、多くの方は、大ヒット作『ノルウェイの森』あるいはデビュー作の『風の歌を聴け』を手に取ると思います。

風の歌を聴け (講談社文庫)

風の歌を聴け (講談社文庫)

 

 

ノルウェイの森』『風の歌を聴け』、この二作から入ると春樹嫌いになる確率がグッと上がると思います。

デビュー作かヒット作から入るとダメって、詰んでるやん。

春樹アンチは上記二作のいずれかしか読んでいなかったり、そもそもまったく読んだことがないのにネットにあふれるインスタントなイメージだけで「キモいわ~」とか適当こいたりしているイメージがあります。

 

まず大前提としまして、村上春樹はめちゃくちゃ鼻につく文章をしています。わりと好んで読んでいるぼくも、この前『騎士団長殺し』を読んだときに「めっちゃ鼻につくな」と感じる表現が2ページに1回は出てきたので、耐性のない人は本当にダメでしょう。こればっかりはしかたねえ。

 

あと、主人公がめちゃくちゃ女を抱きます。しかもスマートに抱きます。

一人称が「僕」で中肉中背で清潔感のある短髪でシンプルなシャツが似合って体毛は薄くて趣味はビリヤードで好きな小説はフィッツジェラルドでそこそこの大学を卒業していてあたりまえのように英語を話すことができて杉並区あるいは中野区のこぎれいなマンションに住んでいて仕事は順調で金持ちでもなく貧乏でもなくちょうどよいつつましい暮らしをしていて行きつけのバーや喫茶店があって酒やコーヒーの種類にくわしくてクラシック音楽やジャズに造詣が深くて休みの日には丁寧に時間をかけてスパゲッティを茹でる男が、いつも「その気はなかったはずなのに」気がついたらスマートに女と寝ている。ふざけているのか? そりゃ嫌いな人は嫌いだし、むしろ好きな人の方がおかしいんじゃないかと思えてくるな。

 

さて、作風に話をもどしましょう。

村上春樹は実は「幻想文学の作家」なのです。

 

もちろんどれもが純文学的な作品ではあるのですが、展開や設定などにSFやシュルレアリスムの要素が非常に多く盛りこまれています。長編はほとんどがファンタジー的要素を含む作品です。

これを知らない人は多いのではないでしょうか? 小ぎれいで気障な男がバーなどで女を抱きまくった挙句「僕は結局のところ孤独なのだ。玩具箱の奥底で眠る人形と同じように」とか言っちゃうヤマなしオチなし意味なしみたいな小説を書いているアメリカ文学かぶれのジジィと勘違いしている人が多いのでは?

 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』なんて本当にファンタジー。まずもう舞台がファンタジー。二章構成で、それぞれ異なる物語が交互に絡みあって進んでいくのですが、
『世界の終り』は一角獣が生息し「壁」に囲まれた街に入ることとなった僕が「街」の持つ謎と「街」が生まれた理由を捜し求める物語で、
『ハードボイルドワンダーランド』は暗号を取り扱う「計算士」として活躍する私が、自らに仕掛けられた「装置」の謎を捜し求める物語です(Wikipediaから引用)。いやめっちゃファンタジーやん。

 

村上春樹はそもそも幻想文学シュルレアリスムの書き手であって(厳密には違うおじさんは帰ってください)、そこで意味深なセックスをしたり、意味のないセックスをしたりするだけです(「だけ」とは)。

短編はわりとリアリズムの作品も多いですが、長編は基本的に超常現象モリモリの作品ばかり。そしてちゃんと「ヤマありオチあり」のストーリーテラーなんですよ。ちゃんとエンタメっている。

 

、一番売れた『ノルウェイの森』ですが、これが例外的な作品なのです。

ノルウェイの森』は徹底的なリアリズムの作品です。1968年の日本で男女があれこれする、超常現象がおきない話。

 

一読すると普通に「恋愛小説」です。もちろんエンタメに全振りした恋愛小説かと言われたらぜんぜん違うとは思うんですが、とにかく男女のアレコレを軸にした小説が爆発的に偏って売れてしまったものだから「うざったくてくせぇ恋愛小説を書くおっさん」という印象をもたれてしまうことになったわけです。めっちゃかなしいな。

村上春樹といえば一般的には『ノルウェイの森』の人って感じだけど、それはどうも日本とか中国とかアジア圏でのお話らしくて、他の地域ではべつに『ノルウェイの森』だけフューチャーされているわけではないようです。なんかアレな話だねえ。

 

デビュー作の『風の歌を聴け』は「海外文学オタクが書いた散文詩」と言えなくもなくて、ストーリーテリングはしてないから、気障ったい部分だけが印象に残るかも。

作者も意図して「本来の作風から外して書いた」小説である『ノルウェイの森』や、デビュー作でまだ作風が固まっていない時期に書かれた『風の歌を聴け』だけが読まれて、世間一般はそのイメージしか持っていない、というのは本当に切ないな……と思います。

 

「じゃあ最初になに読めばいいのよ!」と聞かれたときにぼくが答えているおすすめが以下です。

 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)新装版 (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)新装版 (新潮文庫)

 

谷崎潤一郎賞受賞の出世作

先ほど説明したので詳細は割愛しますが、純文学でもあるし、SFエンタメとしても読める傑作です。ただしまあまあ厚い。性的描写は少なめ。

 

海辺のカフカ

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

 

こちらは現代(刊行は2002年だけど)日本を舞台にしたSFアドベンチャー。非常に読みやすい。ただまあまあ厚い。 

春樹作品では異色の語り手となる15歳の少年・田村カフカの章と、知的障害の老人であるナカタさんの章が交互に進んでいく。カフカくんは15歳にしては達観しすぎているし落ち着きすぎているしリアリティはありません。ナカタさんの章はとてもコミカルでよい。

キャラクターがいちいち魅力的なのが特徴。少年と老人というめずらしい主人公のほか、現代の若者(刊行は2002年だけど)である星野くんなど、これまで用いてこなかった登場人物の設定に春樹の挑戦が見られる作品。

諸々が『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の焼き直し感強いけど、そんなこと言ったら赤川次郎や西村京太郎なんて(以下割愛)

主人公たちの年齢が年齢のため性的描写は少なめ(それでもまあちょっとはある)。

 

象の消滅

「象の消滅」 短篇選集 1980-1991

「象の消滅」 短篇選集 1980-1991

 

「いきなり長編は無理! 」という方はこちら。アメリカで出版された短編集の逆輸入。春樹の短編のベスト盤みたいなラインナップ。

気障な男がスマートに女を抱いたりは(ほとんど)しないので、そういった意味でもおすすめです。

 

他にも『羊をめぐる冒険』や『ダンス・ダンス・ダンス』は短めの長編で読みやすくおもしろいですが、これは『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』からつづくシリーズなので、順番通りに読んでもらいたいところ。

ねじまき鳥クロニクル』や『1Q84』もおすすめしたいけど、かなり厚いのではじめて読むにはキツいかも。

国境の南、太陽の西』『スプートニクの恋人』『色彩をもたない多崎つくると、彼の巡礼の年』『騎士団長殺し』ははじめて読むにしてはまあまあ退屈だし、世間一般がいだいているイメージ通り「気障な男がスマートに女を抱きまくる」のでその印象だけ掬いとってしまう恐れがあるかも。

アフターダーク』は実験的な作品なので上級者向け。

 

ちなみにぼくは『風の歌を聴け』→『ノルウェイの森』→その他刊行順……という順番で読んだのですが、よく熱心な読者になれたなとつくづく思う。

昔読んでダメだった、という人も、興味と機会と気概があれば、挙げた3作品読んでみてほしい。

 

次の記事↓

ayasumi.hatenadiary.jp

ライブ前の飲酒の是非について

めちゃくちゃ顰蹙買いそうだから公開を迷った記事である。
ライブ前の飲酒の是非について考えてみたい。

渋谷のギャル100人に聞いた。「バンドマン」と聞いて想像するものは?

「酒クズ!」

「女にだらしないイメージ(笑)」

「みんなきのこ頭だよね~」

「目を見せろや目を」

「ロン毛が汚い! 不潔! 男は黙って短髪」

「貧乏だからデート割り勘で最悪」

「おおよそ流行から外れた、やかましいギターかき鳴らしてるやつらでしょ? エフェクターかませて轟音出して悦んで、ふーんそれがオルタナティブですかって感じ(笑)。理論の勉強はしないし練習もしないのに機材だけはいっちょまえにどんどん増やしやがる。シロップとかノベンバがルーツ(笑)かなんか知らんけど、シロップはちゃんと”歌っている”し、ノベンバはただかき鳴らすだけじゃなくてもっとコアなことやってる。その表層だけすくって真似しても劣化コピーでしかないんだよ? みんな本気でそれが売れると思ってるの? もう90年代じゃないんだよ? 2019年だよ? 平成も終わろうとしてるんだよ? いやナンバーガールは復活したけどさ。『おれたち売れたいとかそういうダサい意志はないから。メジャー目指すみたいな、そんなんサムいし』とか言ってさ、じゃあ就職しろよ! 20代後半にもなってまだバイト生活しやがって、結局あきらめきれてないんだろうが! そんな貧乏生活の中なんとか捻出した金でノルマ払って、それに出たからといってなにが起きるわけでもないブッキングライブ出て、どうすんだよ! 別に売れたいわけじゃないとか変なこと言って自分を保つのやめろよ! メジャー志向はダセェといいつつUKとか残響とかの大手インディーズレーベルにワンチャン拾われないかなあとか思ってるのがまたクソダ

 

こんな感じですよね、だいたい。合ってます。
ちなみにバンドマンって女にだらしないイメージあるかもしれないど、全体の3割くらいだよ。おれはぜんぜんモテないよ。ふざけんな。
ほんと、なんで生きてるんだろうな、バンドマンって。

 

さて

渋谷のギャルも挙げたように、バンドマンと切っても切り離せないもののひとつにアルコール……酒がある。

バンドマンはだいたい酒が好き。正確に言うと酔っぱらうのが好き。みんなそうでしょ?

で、だ。
今回はライブ前の飲酒の是非について考えてみたい。
というかぼくは常日頃より考えている。

たとえば、仕事やバイトに行く前に酒を飲むだろうか。

飲まないよね。
飲む? 飲む奴はもうすべてが終わっているのでこの話はここで終わりです。

夜の仕事とかゆるい居酒屋とかではないかぎり、だいたいは酒気帯びで労働してはいけないことになっている場所が多い。多い、っていうか常識的にそうだろ。なんかこう、人としてそうだろ。いやおれも飲酒しながら働きたいよ本心は。でも我慢しなきゃいけないわけじゃん。
どんなにゆるいホワイト企業でも飲酒して出勤したら、そらもう怒られるわけで。

なんで飲酒したらダメかって、アルコールはいろんなものを狂わせることがわかっているからである!
思考能力も身体能力もすべてを歪ませる悪魔のマテリアルですよ。そんなもの飲んだら諸々のパフォーマンスに多大な影響及ぼすに決まってるじゃん。

じゃあなんでバンドマンはライブ前に飲酒するの?

サラリーマンは出勤前に飲酒しない。
スポーツマンも試合前に飲酒しない。
じゃあバンドマンもライブ前に……あたりまえのように飲酒します。なんでやねーん!

オーケストラの人とか飲酒するイメージまったくないよね。ロックのバンドマンと、シンガーソングライターは飲むよね。あとジャズの人も飲む奴は飲むっぽい。

プロのミュージシャンはみんな飲まないんじゃないかなあ。
メジャーの一線で演奏している・していた人が何人か知り合いにいるんですけど、みんな「ライブ前に酒? 飲むわけがない。そんな音楽なめてる奴はいないよ」と言っています。
本当に訊いたんだよ、わざわざ。「プロでもライブ前に飲酒する奴います? そういうのどう思います?」って。これ本当だよ、ホラじゃないよ。

なんでプロミュージシャンやオーケストラの人が飲酒しないのかって、たぶん「仕事」ということを強く意識しているからだと思うんですよね。まあそらギャラもらってるから仕事以外のなにものでもないけど。
ある人は「ライブは仕事なわけで、仕事の前に酒を飲むなんてとんでもない」と言っていました。至極真っ当ですよね。

もちろんバンドマンも飲む人は飲むし飲まない人は飲まないですよ。 
飲まない人はやっぱり「ライブ前にアルコールなんてとんでもない!」というプライドを持って飲んでいないと思う。
あと普段飲まないけど「飲みたいときは飲んじゃう」「人にすすめられると飲んじゃう」「場の雰囲気にあわせて飲んじゃうこともある」という人もいたりして。もしかしたらこの層が一番多いかもしれない。

断っておきますが、これ飲酒してる人を批判する記事ではないですよ。
本当に飲酒する行為って適切なのぉ~?ちょっと考えてみて~?と問いたい記事です。

 

なぜ飲酒してしまうのか?

飲酒勢の主張はだいたいこんなところだと思います。

①仕事じゃない(ギャラもらってない)から飲んでもいいだろ
いやお客さんがいてチケット代もらっているならばプロの意識でいろよ、と言いたいんだけど、どうだろうね。

②緊張をほぐすため
アルコールに頼ってなんとかするのザコすぎない? ていうか酒で緊張ってほぐれなくない? 人によるのか? ほぐれたとして、代償でかくないか?

③パフォーマンスに勢いをつけるため
アルコールに頼ってなんとかするのザコすぎない? 勢い出るとしてもそれは酔っ払いの衝動なわけで、それって音楽的ものとはかけ離れたところにあるよね。

④なんも考えてないけど酒好きだから飲んでる。酔ってライブやると楽しい!
考えろ。飲むな。

⑤アル中だから飲んでしまう
バンドやめて入院しろ。

⑥酒強いから酔わないし飲酒しても問題ないでしょ
じゃあ水でも一緒だろ。

⑦酒の味が好きなんだよ
うるせえ。

⑧てめぇやるのかこの野郎
ああ?

 

あれ、結局批判する感じになってない?
う~~~~~~~~~~ん、ちゃうねん、怒りたかったわけじゃないねん。怒ってるわけでもないねん。

ぼくは基本的には「飲まないほうがよくな~い?」派なんだけど、「飲んでもいい人」「飲んでもいいバンド」は存在すると思っています。

以下の通り。

①パンクバンド
パンクバンドは、いいんじゃない、飲んでも。

②趣味バンド
完全趣味でわりきっている人はいいと思う。お酒飲んで楽しくやりましょう。
ぼくもライブハウスの新年会でBUMPのコピバン(なぜかボーカルだった……)やったときはガバガバ飲んでから出た。そういうイベントだったし、飲まなきゃやってられないよ藤原基央のコスプレなんて。

③酒が機材
キャラクターとして「常に飲酒している」「酒好き」のシンガーやバンドは、それ(飲酒している演者)込みでお客さんも楽しんでるわけだし、ぜんぜんオッケーだと思う。酒が機材化しているというかパフォーマンスの一部になっているというか。
勝手に名前出して怒られるかもしれないけど、知り合いのシンガーソングライターに岬たんっていう子がいて、岬たんの岬たん像を岬たんたらしめているものはビールなのである。ライブ中にガンガンビールを飲む。お客さんもそれ含めて岬たんや岬たんのライブを楽しんでいる。いいじゃないか。ガンガン飲酒してほしい。勝手に名前出したけど岬たんは優しいから怒らないと思う。そういえば岬たんボーイズ(岬たんのバンドセット)ってパンクバンドですね。
これは"コンセプト"になるまで徹底する必要があると思う。「ああ、すべてが飲酒ありきなんだな」って思わせるまでに徹底する必要が。普通のオルタナバンド、みたいな奴らが出番前やステージ上で酒飲んでたらぼくは印象かなり下げてしまうな~(こんな性格悪いのぼくだけですか)。

 

こんなもんですかね。これ以外に思いつかんよ。
緊張ほぐすためとか勢いつけるためとか、もっともらしい理由に聞こえなくはないけど、アルコールに頼るようじゃそれまでだと思うで。
「酒に強いから大丈夫」という人もいるけれど、どんなに強い人にだって微弱でも影響は及ぼすはず。楽器演奏、ましてやそれを人前でってなるととても繊細なパフォーマンスを要求されるわけで……え? ライブは勢いでねじふせるものだって? ああそう……。

そんなわけで「何気ない飲酒、それでいいの? 考えてみない?」という記事でした。
もし超絶反対意見があって論破したい太郎がいたらコメントください! 無視します!

音楽家に音楽理論は必要か?

どうも、いろんなバンドでドラムを叩いている無職です。

こんなこと言うのもなんですが、ぼくは自分の演奏技術にはクソほど自信がありません。人並みに叩けるくらいには練習したけど、まあ人並み、みたいな。別に一目置かれるわけではない、みたいな。そんなドラムです。
そんなぼくにすら、みんなドラムのサポートを頼んできます。なぜならドラマーは人口が少ない(かつその中でも気軽に頼める人ってそんなにいない)から。下手な奴にでも声がかかるということです。

そんなわけで多くのバンドでドラムを叩いてきたぼくですが、たくさんの人とセッションとして知ったことは「あ、音楽理論がわからなくてもバンドやってる人っていっぱいいるんだ」ってことです。
音楽理論って言ってもあれですよ。オーケストレーションがどうポリフォニーがどうとか難しい話ではなく、基本的な五線譜が読めない人が多いって話です。

目次

 

バンドマン、楽譜読めない奴多すぎ問題

ぼくは中学校で吹奏楽部に入部して、高校3年生までみっちりやっていた。パーカッションを担当していたため、その流れでドラムの活動している。なんとなく上京してしまい、なんとなく「ドラム叩けるしバンドでもやってみるか」という流れ。

とはいえ、吹奏楽部時代はドラムについて誰が教えてくれるわけでもなく(先輩もその上の先輩もその上の先輩もちゃんとしたドラムを習っていなかったから、必然ぼくも習っていなかったわけ。ぼくが吹奏楽部時代に叩いていたのはあくまでも「吹奏楽のパーカッションにおけるドラム」って感じ)。
吹奏楽部時代のドラムの経験などはロックやポップスの「ちゃんとしたドラム」を演奏するにあたってはなんの役にも立たず、プロのレッスンに通いゼロから学び直した……。

吹奏楽で得たドラムの経験値はほとんどゼロに近かった(ショックだったよ)。
だけど培えたものはあったのだ。ドラムのスキルではなく、「音楽への理解」である!
クラシックルーツの器楽合奏を経験することによって、楽譜が読めるようになり、諸々の知識がつき、様々なジャンルの音楽に触れることができた。幼少からピアノをやっていたとかそういうこともなく、なんなら和声(コード理論)についてもよくわかっていないので、別にアカデミック人間なわけではないのだが、ト音もヘ音も読めるし(スラスラとは読めないけど)、強弱記号も速度記号も発想記号も反復記号も省略記号もわかる。いや忘れたことも多いけども。

だから、いっちょロックバンドでドラムをやってみようかと思い立ったのである。「楽譜が読める」という土台があったから。ていうか音楽やるにあたって楽譜が読めるのってあたりまえじゃん!? あたりまえじゃん……?

そしていざこちらの世界へ踏みこんで出会ったのは、「拍子」「小節」の概念もわからずにギターをかき鳴らす人間たちだった。……え? なんで楽器やろうと思ったの。なんでそれなりに弾けてるの……?

そう、これはたまたま学生時代に吹奏楽部(笑)に入ったおかげでたまた楽器が読めるだけのぼくがえらそうに講釈たれる記事です。

 

いきなり結論ですが

結論から先に申し上げますと
音楽理論は習得すべきか?」に対する答えは「人による」
んだと思います。

プロでも楽譜が読めない人ってけっこういるらしいです。
ビートルズ全員楽譜が読めないってマジ? マイケル・ジャクソンもかよ!
なんなんだよ。楽譜読めなくてもいいんじゃねーか!
うん、いいと思う。天才とかスターとかなら、いいと思う。パンクバンドじゃないかぎり、楽譜は読めたほうがいいし音楽理論を勉強したほうがいい。

「楽譜が読めないからこそ、自由な発想の曲を作れる」と主張する人がいますが、ぼくはそんなものは一切ないと思っている。太字でもう一回書くけど、一切ない

なぜなら、そう主張する彼らも、音楽理論から大きく逸脱した曲を書いていないから。
書けないんですよ、理論から逸脱した曲なんて。
「気持ちのいい音、気持ちの悪い音」っていうのがあるわけだから、どうしても自然とセオリー通り、ある程度のルールに沿った曲が構築される。まあ、コーラスやフレーズにおいて音の誤りが生じたりするけど……。

「おれは音楽理論を修めてないからこんな曲が作れるんだ。音楽理論なんてむしろ足枷」と自信満々に言う人、今まで8人くらい会ったことがあるんだけど、いやいや自分の無学をそんなふうに正当化するのは愚行でしょ。恥を知れ恥を。

ちなみにぼくは詳しい理論わからんので常に恥じてます。気づきましたか、これは自戒の記事でもあります。

先ほども申し上げました通り、天才かスターなら楽譜が読めなくてもいいと思います。

天才は「異様に音感がよく」て「記憶力が抜群」な人。
スターは「その人のキャラクターだけで仕事がもらえる」人。

そんな自信、あります? いやあるならいいんですけど、ないなら音楽理論ガチガチに修めるまでしなくても、五線譜くらいは読めたほうがいいんじゃないかなあと思う。

あ、パンクバンドに限っては楽譜読めなくていいです。パンクバンドに限っては楽譜読めないからこその楽曲やプレイがあると思います。いやこれまじめな話、本気で思ってますよ。でもポストパンクやってる奴は読めろ。

「おれは楽譜なんて読めなくても今までやれてきたんですけど。じゃあ楽譜が読めたらどんなメリットがあるのよ?」という話ですが、いーーーーーーっぱいあるよ!!!!!!

楽譜が読めると

①意思の疎通がスムーズになる

楽譜が読めないのに音楽をやるというのは、「現地語を話せないのに外国に住む」のと同じことである。と思うのだがどうだろうか。

海外旅行、ぼくは行ったことがないんだけど、片言の英語とボディランゲージとノリと勢いと雑な勘で乗り切れるらしいね。
「楽譜読めないけどバンドやってるぜ!」という人はそれと一緒。
現段階で片言の英語とボディランゲージとノリと勢いと雑な勘で乗り切れているのは、他のメンバーが正しい道に導いているおかげ、もしくはボディランゲージとノリと勢いと雑な勘で乗り切っている奴限定でコミューンを形成してしまったか。つまり甘えでは!?

短期滞在ならそれでもいいかもしれないけどさ、ずっと音楽やっていきたいわけじゃん。今までずっとやってきたわけじゃん。お前イタリアに5年住むことを強いられたらちょっとはイタリア語勉強するだろうが。そういうことだよ。

楽譜が読める(用語が理解できる)と「あそこの8分音符で刻んでいるところさ〜」「サビのアウフタクトさ〜」「2拍3連のキメからブレイクするところさ〜」と会話がスムーズになる。
楽譜が読めない人には「あそこのダダダッってところさ、え? いや違うよ、あのBメロのところだよ」などと伝えなければいけない。スマートじゃない。

ここは「フォルテ(強奏)でいこう」とか「ここはディミヌエンド(だんだん弱く)ね」とかは、まだ簡単に言葉を置き換えることができるんですが、「このフレーズはスラーで」とか「テヌート気味で」とか、そういったアーティキュレーションのニュアンスは、わからない人には伝えづらい! 「なんかこう、流れるように弾いて」だと齟齬が生じることが多い。「スラー」という言葉・概念を理解共有していると、それがひとつの指標になる。これ便利じゃないですか?

なにより、共通の譜面を見ているときのコミュニケーションのスムーズさって言ったら、もうね。

ところで「小節」「拍」「拍子」の概念が理解できない人間はマジでやばいので、早急になんとかするか人との共同作業やめろ。
わかっていない人、けっこういる。これはもうマジで意思の疎通に悩む。
「●小節休みね」などと言っても通じない。やばい。「●拍分休みね」と言っても通じない。やばい。小節、拍、拍子だけはわかってくれ、頼む。
頭の中で楽曲イメージどうなってるんだ。雅楽の楽譜みたいになってんのか。

そんな人でもみんな4/4拍子で偶数フレーズ単位で進む曲を自然と作るのはすごいと思う。DNAに「これが音楽において自然な形」として刻まれているのだろうか。
音楽理論がからっきしの奴でも『4/4拍子で偶数フレーズ単位で進む曲を自然と作る』神秘」についてどこかの大学機関で研究したりしてませんか。
まあそういう奴は自分の中だけで完結している謎の変拍子を時々ねじこんできたりするけどね。やめてほしい。

あ、パンクバンドは楽譜的な意思疎通より野生の勘でライブしたほうがかっこいいと思う。

②仕事が増える

スターならこんなこと気にしなくていいんですけどね。
楽譜が読めない奴には、まず単体で楽器の演奏依頼はない! と思うんだけどどうなんだろ。

もしあなたのバンドが人気になってデビューできたとする。しかし解散してしまった!
作詞作曲ができるボーカルは、まだ生きていけるかもしれない。でも、楽譜が読めない、とりわけ華のあるプレイができるわけではないギターのあなたは? 即死っしょ。

ジミ・ヘンドリックスが楽譜読めないのにスターになれたのは、天才でスター気質だったからだよ! KenKenもそう! みんな天才でスターだから金もらえるんだよ!
あなたは果たして天才だろうか? スターだろうか?

ちなみに桑田佳祐吉田美和は楽譜が読めないらしい。まあボーカルはともかく、楽器専門の人は楽譜読めたほうがよさそうだよ。だって楽器専門にしてるわけだし……。てか音楽業界は一定のレベル以上のステージになると全部五線譜でわたされますからね。コードがわかるだけじゃダメだよ。

ちなみにパンクバンドは解散すると仕事がない。


③プレイが緻密になる

常に自分のプレイを楽譜として脳に投影すると、緻密な演奏が可能となる。
「パン」というたった一発の音を「4分音符のイメージ」で演奏するのか「8分音符のイメージ」で演奏するのか「16分音符のイメージ」で演奏するのかで、まったく出音が変わってくる。

そしてこれをバンドで共有できるとバンド全体の演奏が緻密となる。「ブレイク前最後の音は8分音符分で」と共有するだけで、アタックとリリースが変わってくるはずだ。

音楽理論を修めていないからこそ、直感で野生的なプレイができるのよ!」と主張する人もいますが、それをやって楽しいのは自分たちだけかもしれないということを考えたほうがいいかも。
音楽理論を熟知している人でも野生的なプレイはできるし、なんならそういう人たちの野生的なプレイはもっとかっこいいと思うよ。

まあパンクバンドに緻密さはいらないけどね。雑味があるほうがかっこいいよ!

 

④楽曲の幅、プレイの幅が広がる

「おれは音楽理論を修めてないからこそ、こんな曲が作れるんだ・こんなプレイができるんだ」という人たっっっっっっくさんいますが、マジで逆だと思う。

先述したけど、「音楽知識がない奴でも『4/4拍子で偶数フレーズ単位で進む曲』を自然と作」ってしまうわけで。んでもって、できる曲は調性音楽(キーのある音楽)でしょ。そしてモードではなくコード音楽なわけだ。結局「普通の楽曲」に落ち着いてるんだよ。

絶対に音楽知識を知っていたほうが奇抜な曲が作れると断言できる。楽譜が読めないのにウルトラ変拍子の楽曲を書いてしまう高橋國光みたいな例外は除く。

あとみなさんがよく言う「これは音楽理論の常識にとらわれない発想だからこそ書けた曲だな・できたプレイだな」ってやつは、たぶんそれはあなたが楽典修めていても発想できたはず。もしくは楽典修めていたら、発想したとしても、こりゃ不適切だなあ採用できんなあと唾棄したはず。

みなさんは現代音楽を聴いたことあるだろうか。あれよ、オーケストラとかピアノとかの現代音楽。


【本編】2019年度全日本吹奏楽コンクール課題曲 Ⅴ ビスマス・サイケデリアI

無調で変拍子バリバリ。めまぐるしい展開。基本的にマイナードロドロ、突然のメジャーファンファーレ、でも違和感ない。特殊奏法、特殊打楽器。奇抜でしょ。こんなの、調性音楽を主とする作曲家以上に音楽理論を研究していないと作れない。

佐村河内守ゴーストライターとして一躍時の人となった新垣隆の専門は現代音楽なのである。彼は佐村河内守の依頼で、専門外でありながらも壮大でロマンチックな調性音楽の交響曲を書いた。書けたのである。書けるのである。
氏は「あの程度の曲、現代音楽やってる人は誰でも書けるよ(意訳)」と語っている。マジやべー。
氏が「吹奏楽編成だったら曲想の指定はしないよ」と言われて書いた『吹奏楽のための小品』は「やっぱりこういうの好きなんだろうなあ」というはっちゃけた現代音楽風味の楽曲である。

現代音楽はハチャメチャやってるように聴こえるが、どれもこれも学のある人がとても緻密に構成した楽曲なのだ。三善晃を聴け三善晃を。『管弦楽のための協奏曲』を聴け。『祝典序曲』を聴け。

なにが言いたいかっていうと、知識があればあるほどやれることは増える。知識がなければ結局セオリーに沿った普通のことしかできない

「楽譜が読めないからこそ、この楽曲の自由度じゃー!」とか言っているのは喧嘩の強いヤンキーみたいなもん。「全力無双激烈拳!」つって手足ジタバタしてるだけ。武道極めた人の正拳突きでワンパンよ。そして武道極めた人は武道を極めたからこそ意味のある奇妙な動きもできたりする(よね?)。

中村勘三郎は言った……「型があるから型破り。型が無ければ、それは形無し」と。そういうことだよ。土方歳三はいろんな流派の技を使って、奇抜な発想で戦場を縦横無尽に駆け回ったらしいけど、それは天才って言うの。高橋國光は特別なの。

あ、パンクバンドは形無しなのが逆にかっこいいと思う。

 

まとめ

いや別にえらそうにするつもりはまったくないんです。ぼくも五線譜が読める程度で、詳しい理論なんて知らないんです。イキリオタクなんて揶揄しないでください。ここまで読んでくれてありがとね。6000文字も書いたらしいわ。

「楽譜読めないほうがいい」「理論修めないほうがいい」「人に習うつもりはない」と高らかに言う人が多いものだから、アンチテーゼとしての記事です。いや嘘です、そういった人たちを否定することはしないですよ本当に。殴らないでください。

ガチガチに理論修めるまでしなくても、五線譜が読めるだけでまったく世界が変わってくるはず。「音楽理論がわからないからこそ見える世界」はない。もう断言しちゃうけど、そんなものはない。それは逃げ。甘え。

ただ、ぼくの周りで「音楽理論なんてしゃらくせえ」と感覚でやっている人たちは、みーーーーーんな天才気質なところがある。これは本当に。マジでずるい。
みんなめっちゃいい曲書くし、小説とか読まないくせにとても文学的な歌詞を書けたりする。マジでなんなの? ムカついてきた。嫉妬の炎で燃えてきた。クソクソクソクソクソクソクソクソク

こういうこと考えるとやっぱり音楽理論を学ぶか否かは「人による」んだろうな〜。天才は「感覚でできちゃう」から必要ないんだろう。
クソクソクソ! 自分の才に甘えやがって! 気づきましたか。これは嫉妬の記事です。でも甘えないで勉強したほうがもっとすごい音楽できるようになると思うよ、本当に。

最後にまとめておきますね。

音楽理論を知っているととても便利。
・無学は逆にできることの幅を狭める。
・マジの天才は音楽理論なんか学ばなくても大丈夫。
・パンクバンドに音楽理論はいらねえ。

以上です。ぼくもこんな記事を書いたからにはちゃんと音楽理論を勉強しようかなと思います……。

今日はこれでおしまい。